配属されて間もないスタッフです。基本的な処理を教えてもらえませんか?
処理の手順
貸倒引当金は、次の手順に従って計上します。
1.債権を分類します
2.分類した債権別に債権を区分します
3.最後に回収不能となる見込み率を債権に掛けて算出します
1.債権を分類する
まずは期末残高の債権を「営業債権」と「営業外債権」に分類します。
営業債権――― 企業が通常の営業活動から発生する債権のことです。具体的には、売掛金や受取手形がこれに該当します。これらは企業が商品やサービスを提供した対価として受け取るべき金銭を指します。
営業外債権――― 企業の通常の営業活動以外から発生する債権のことです。具体的には、貸付金や投資に伴う利息の受取などがこれに該当します。これらは本業以外の活動から発生する債権を指します。
これらに分類した理由は会計処理が異なるからです。
営業債権の会計処理
仕訳は洗替法での計上をおすすめします。こちらの方が、差額補充法より管理が、特に税金費用を算出する業務のときに帳簿から拾いやすいからです。
・前期末に計上した貸倒引当金の戻し入れ
貸倒引当金 ※ / 貸倒引当金繰入額
・当期末の貸倒引当金の繰り入れ
貸倒引当金繰入額 / 貸倒引当金 ※
青字の科目は両者とも同じ科目で「販売費および一般管理費」の科目です。営業債権に係るPL科目は販管費で処理します。通常の商売(営業活動)から発生した債権の回収不能見込み額は、営業利益に影響させるためです。
※「貸倒引当金(貸借対照表科目)」については、流動資産の科目にかかわる債権の回収不能見込み額の場合は、流動資産の「貸倒引当金」に、固定資産の科目にかかわる債権の回収不能見込み額は、
固定資産の「貸倒引当金」で計上します。
貸倒引当金繰入額が 「繰り入れ < 戻し入れ」 の場合はどうなるでしょうか。
「貸倒引当金繰入額」がマイナスとなる訳ですが、帳簿残はマイナスのままで構いません。営業利益の算出に含めるためです。
営業外債権の会計処理
営業外債権に係る貸倒引当金の会計処理は次の通りです。
・前期末に計上した貸倒引当金の戻し入れ
貸倒引当金 ※ / 貸倒引当金繰入額
・当期末の貸倒引当金の繰り入れ
貸倒引当金繰入額 / 貸倒引当金 ※
青字の科目は両者とも同じ科目で「営業外費用」の科目です。営業外債権に係るPL科目は営業外費用で処理します。本業のではない活動から発生した債権の回収不能見込み額は、営業利益に影響させずに「営業外損益」や巨額の場合「特別損益」で計上するためです。
※「貸倒引当金(貸借対照表科目)」については、流動資産の科目にかかわる債権の回収不能見込み額の場合は、流動資産の「貸倒引当金」に、固定資産の科目にかかわる債権の回収不能見込み額は、
固定資産の「貸倒引当金」で計上します。
貸倒引当金繰入額が 「繰り入れ < 戻し入れ」 の場合はどうなるでしょうか。
「貸倒引当金繰入額」がマイナスとなる訳ですが、その場合、マイナス残を「貸倒引当金戻入益」に振替します。こちらも繰入と同様、営業利益には影響させずに「営業外収益」の科目で計上します。
2.債権を区分する
債権を「営業債権」と「営業外債権」に分類しましたら更に、それぞれの分類の中で債権を次の三区分に分類します。
・一般債権
経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権
きちんと入金のある健全な債権を意味します。
・貸倒懸念債権
経営破綻の状況には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権
入金はされるが、予定日から数か月遅れて入金されたり、督促しないと払ってもらえない債権を意味し、灰色債権とも呼ばれます。
・破産更生債権等
経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権
取引先が破産、民事再生手続き中、もしくはそれに準ずる状況で、回収がほぼ不可能と見込まれる債権です。
3.回収不能となる見込み率を算出する
最後のステップとして、債権を区分したら、区分した債権ごとに回収不能となる見込み率を算出します。この見込み率を債権額に掛け算することで「貸倒引当金繰入額」が算出されます。やっと繰入金額が計算できるわけですね。
回収不能見込み率 × 債権額 = 貸倒引当金繰入額
一般債権
過去の貸倒実績率等合理的な基準を用います。
回収に問題ないと思われる債権ですが、会計の世界では完全に回収不能リスクがなくなったわけではないので、将来のリスクを財務諸表に反映すべく貸倒引当金を計上します。
貸倒実績率 =
当期含めた過去5年の回収できなかった額合計 ÷ 当期以前過去5年間の期末債権残合計
(例)当期末が2024年度だとすると――
2020年度~2024年度の貸倒額合計 ÷ 2019年度~2023年度の期末債権残合計
※この計算方法は一般的に採用されている計算方法ですが、監査法人の会計士の先生にみなさんの会社に合った計算方法ご確認いただいてください。
貸倒懸念債権
金融商品会計では「財務内容評価法」や「キャッシュ・フロー見積法」で算出しますが、金融機関ではない一般的な企業では取引先の財務諸表はそうそう入手できないので、会社のルールに基づいて毎期同じ基準で算出します。
入金予定日から6か月遅れなら「50%」、1年遅れなら「100%」とするなど、こちらも監査法人の会計士の先生にご確認いただいてください。
大事なことは、会社のシステムで入金予定日通りに入金があるのか、遅れてはいないかをすぐに出力できるようにしておくことです。そして遅れが生じていたら、営業担当者に報告して回収に動いてもらうよう進言することが経理の役割です。
破産更生債権等
金融商品会計では「財務内容評価法」で見積もりますが、「債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とする」なんてことは一般の会社さんでは情報が限られていますので、会社のルールに基づいて毎期同じ基準で算出します。
会社清算が行われて、債権の一部が回収できる可能性もありますが、時間がかかりますし回収予想額を見積もることが難しいので、貸倒引当金繰入額「100%」として最大損失額を保守的に計上することが引当金計上の趣旨に合っているでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。債権を区分けしたり、仕訳も長短の管理やどの段階損益で計上するか気にしなくてはなりませんし、ちょっと処理が複雑ですよね。複雑ですが、決算に与える影響が非常に大きい(金融機関なら超絶重要な)処理ですので、正しく理解し漏れなく処理していただけたら思います。